間違った指導


そのお客さんが怒鳴り始めて26分が過ぎた。よくもまぁそれほど怒りが持続するものだと感心する。50歳台後半、罵声のあいだに “ オレは○○○○会社で××している ”とか、“ お前なんかすぐにクビにしてやる ”とかいった、えらく高飛車な声が聞こえてくる。レジの店員さんは困りきった表情だ。お気の毒に。

ここは家電製品のディスカウントストアである。余計なサービスを徹底的に排除し、安く売ることに命をかけている。アフターサービスを受け付ける窓口はない。壊れた場合は買った本人が自分でメーカーと直に交渉するのだ。店内にもそういう趣旨の掲示をあちこちに張っている。

クレームを付けてきたオジさんは2年前に買ったコンポが壊れたので直せとネジ込んで来たようだ。保証期間はとうに切れているだろうに、店頭に持って来るなりどなり散らしている。「 この店は客を大切にしないのか 」 と。


これを見ていて、半年前に倒産した会社のことがフラッシュバックした。
その会社も同じように、余計なサービスをしないことで格安で売っている会社だった。ある日、経営コンサルタントという人が 「 これからはCSR。お客さんを大切にしない会社は生き残れないから、顧客満足のためのサービスを充実させないといけない。 」 という指導をした。

そこで会社はサービス部門に人を割き、アフターサービスを格段に充実させた。
それまでは、安いけれど後は自分でなんとかしなけばいけないということから自立的なお客さんしか来てなかったのが、安くてサービスも充実しているということから客層が変わった。安ければ安いほど良いという人たちが増えたのだ。そういうことで一時期はお客さんが増え売り上げも上がった。しかし、こんなお客さんたちは何かあると全て店のせいにするので、クレームも圧倒的に増えた。たちまち収益を圧迫して会社は傾いた。

お客さんは重要なステークホルダーだから大切にしないといけない、というのは一般論としては正しい。でも、この会社の経営モデルからすると、大切なのは不特定のお客さんへのサービスを充実させることではなくて、それなりの知識を持った特定の人たち相手に価値あるものを安く提供することであった。



先ほどのクレーム客に対して廻りの他のお客さんたちから 「 おっさん、ええかげんにせんかい。ここはそういう店とちがうやろ 」 という声があがっている。ひとりやふたりではなく、おっさんをとり囲むように。
おっさんは 「 こんな店には二度と来んからな 」 と捨て台詞を残して出て行った。誰も彼もがお客さんという訳ではない。




【 お詫び 】
ごめんなさい、社員旅行で5日間サボッておりました。ネットへの接続環境がなかったため断腸の想いで更新をあきらめていましたというのはほんの言い訳でして、全てを忘れて遊んできました。
「 もう倒産か 」とか、「 夜逃げしたのか 」などの激励 ( ? ) メールありがとうございます。これからも引き続きお楽しみくださいませ。