業界の常識を超えた理念

これまでのパッケージソフトウェアの開発は、想定ユーザーを最大公約する範囲でサービスとして提供する機能を絞り込み、ある一定の仕様でパッケージに仕立て上げる。そこから外れる機能は 「 特注 」 いわゆるカスタマイズといって、必要とするユーザーそれぞれにあわせて開発をする。パッケージソフトウェアをそのまま使う会社は先ずなくて、かなりの部分をカスタマイズしてもらい結局スクラッチで開発するのとあまり変わらないような場合も多い。いや、パッケージソフトウェアは制約が多い分だけ余計に面倒かもしれない。


この会社はいろんなユーザー企業の多種雑多な要求事項を全てパッケージとして取り込むと決めてしまった。しかも、それをいわゆるカスタマイズとしてではなく、定額保守料金の範囲内で、追加料金なしで提供してしまうのである。1つの会社が追加機能を要求すると、他のユーザーもその追加された機能が使えるということだ。
だから提供されているサービスの範囲は同種のパッケージソフトに比べてずっと広い。それなのにこれまでは請求されていた追加料金がない。他社のサービスを使っていたユーザーからすると、「 考えられない 」 ことなのである。

これまでの業界常識で考えると開発範囲が無限に広がってきそうに思える。何故こんなことができたのか?
「 我々の会社は他社とは違った特別のやり方でやっている。この部分は当社独自の処理方法であるから特別な対応をしてもらいたい。 」と言っていたことが、実は、他の会社でも同じようにやっているところがかなりあって、結果として共有化できる範囲が多かったということ。だれもが自分の会社は特別と思っていたが実はウソだと判ったということでもある。みんな認めたがらないが…。


社員個人の能力が最大の競争優位となるソフトウェア業界において、同社で追求されている人材像が 「 クリティカル・ワーカー 」である。前例のない仕事に挑戦し、ブレークスルーを実現し、新たな価値を創造する 「 問題解決型人材 」になるための方法を、数多くの実例で教えてくれる。

「 クリティカル・ワーカー 」 の特性は、

  1. 安定的かつ豊かな生活の確保に加えて、個人のやりたいテーマで仕事ができる、
  2. 個人の才能を生かせる、
  3. 社会に貢献する新しい価値を創造する、
  4. スケールの大きな仕事ができる、

の4つ。


急成長後、大手の巻き返しにあって一時期落ち込んでいた業績も持ち直しつつある。
インターンシップ制度では5年間有効の入社権利を獲得することができる。他社で経験を積んでから同社に入社してくる人たちも多いそうだ。

ソフトウェア業界の常識をひっくり返した経営者の理念がひしひしと伝わってくる。




引用文献:「 クリティカル・ワーカーの仕事力 」 赤堀広幸 著、ダイヤモンド社