すべてを同時に達成するためには

現在のCSR議論は「 現在価値や理念論 」から、「 企業の実務のなかに社会・環境の要素をどう取り入れるか 」というテーマに移っており、その基本となるのが「 マテリアリティ( Materiality:重要性 )」だと言われています。
「 マテリアリティ 」とは、もともとは会計分野で使用されている専門用語で、簡単にいうと「 財務に重要な影響を及ぼす要因 」のことを指しています。これをCSRにあてはめて「 自社にとって長期的に財務や企業経営に影響する課題の重要度に基づき、行動のための課題を特定し、優先順位を付ける 」という意味で使われています。


しかしこのことは「 環境、社会、ガバナンスは互いに背反するものであり、優先順位をつける必要がある 」 ということでもあります。一番望ましいのは、これらの間での 「 トレードオフ 」 や 「 バランス 」 ではなくて、すべてを同時に達成する仕組みを統合させ、それを技術的な設備と生産システム、企業、産業界、都市や社会全体に至る、あらゆるレベルに組み入れることではないかと思います。


過去の産業資本主義の時代、「より多くの資源を使って労働生産性を高める 」 という戦略は物質的な豊かさを欠き、人口が少なかった時代には合理的でした。
しかし、いまや自然は枯渇し、人間は地球上であり余る資源となりました。より少ない資源から大きなサービスを引き出す 「 資源生産性を高める 」 戦略へと転換すべきだという意識に変わってきています。
たった1%利益率を上げるためにリストラを進めて人々を解雇するよりも、電力や石油、樹齢何百年もの森林から得られるパルプの消費量を減らし、労働力( 雇用 )を増やした方が得られるものが大きいということに気付いた企業が生き残れるということだと思います。


一方で現在の日本は、「 消耗世代 」 と呼ばれる、働く場所のない30代、派遣でこき使われて企業の論理で簡単にクビにされる就労スタイルにみられるように、はっきりと所得格差のある米国型の「 壊れた 」社会になってしまいました。
だからこそ 「 環境保全、経済安定、雇用増大 」 を同時実現するための具体的なビジョンが必要なのではないでしょうか。


引用文献: 「 自然資本の経済 」 ポール・ホーケン他 著、日本経済新聞社