日本の経営を支えるもの


それは現場の力である。経営者が自分の保身しか考えていなくとも日本の会社がこれまでもってきたのはひとえに「 現場の力 」である。そして経営の全ては、つまるところ経営戦略などではなく経営人材に負っているのである。


経営や企業統治を担う人々の質が劣化してきている。なぜ会社は人は、基本原則を踏み外すのか。経営者に求められる資質とは何か。そもそも会社とは、企業とは何なのか。組織は、人はなぜ動くのか。経営の基本原理はあるのか。企業経営の生理と病理は何なのか。


窮地に陥る会社では、必ず経営者が自らのポジションにしがみつくという。「 自分がいなくなると会社が困る 」、「 お客様との関係が切れてしまう 」、「 こうなったのは環境のせいだ 」、「 銀行のせいだ 」、「 政府のせいだ 」、「 世の中が悪い 」…、悪いのは決して自分ではなく、すべては他人のせいなのである。
産業再生機構という現場で、COOという役割を担いながら41社の危機回避と再生の修羅場を通して得た経営の実体験には説得力がある。実際に支援したのは41社、そしてその倍以上の100社以上の会社をデュー・デリジェンスし再生の処方箋を書いたにもかかわらず、多くの経営者が支援の依頼を取り下げたと言う。

組織の意思決定や行動も、所詮はそれを構成する個々の人間が与えられたインセンティブ人間性の現実に支配され、そういったものの相互作用として立ち現れる。どんなに理性的で知的水準の高い人間を集めたからといって、集団としての組織が真に合理的、合目的的な決断を下すわけではない。


インセンティブとは、働く上で何を大切に思うのか、人それぞれの動機付けされる要因である。( 中略 )このインセンティブは、人によって違う。また、同じ人でも人生のステージによって変わってくるものである。ここに能力の優劣はまったく関係ない。


では、ガバナンスが果たす役割の中で、最も重要なテーマは何なのか。これは政治の仕組みでもそうであるように、トップマネジメントの選抜と罷免にある。


ガバナンスが評価すべきなのは、その意思決定ではなく、経営者そのものの適性だ。


現実問題として、企業はある程度の大きさであれば、一回の戦略の間違いで簡単に倒れたりしない。戦略的な間違いを繰り返すことで危うくなるのだ。そして問題なのは、戦略の間違いではなく、それが繰り返されてしまうことである。その場合、むしろ企業体質のインフラストラクチャーに問題があることが多い。間違いを止めることができなかった何かがある。結局、問題は、経営者や経営陣の選任に問題があったにもかかわらず、それを替えられなかったということなのである。


体験していない知識は、肉体化していないために、ほとんど無意味な知識である。


人は、いろいろな思いで生きている。いろいろな生きる場がある。その時々で、人の気持ちはいろいろな方向に向く。もちろんその中で、人は自分の人生や自分の生活、家族を大切にしようと考える。そうしたリアルな切なさを、リーダーがどれだけ受け止められるか、である。個々の人間のさまざまなインセンティブの方向を理解しなければならない。マクロを見ながら、ミクロも見なければならない。


マネジメントを正すというのは、本当の意味でのエリートを鍛えることを意味する。あるいは、エリートになろうと思っている者を鍛えるということである。そこでは最後の最後、つまるところ、人格要件が重要になる。そして経営者の決断は、最後はその人の世界観や哲学観による。強い経営者や強い会社は、迷ったときにその背骨が揺れない会社である。歴史観、哲学観、志という人格要件が、今の日本のマネジメント教育、エリート教育にいちばん欠けている。


リーダー層の脆弱化が国の宝である現場人材を食いつぶす前に、私たちはしっかりしたリーダー、真の経営人材を真剣勝負の修羅場で鍛え、つくり直さなければならない。

再生の修羅場では経営の本質が見えてくる。経営の悪化した企業に共通していたのは、「 一流の現場を持ちながら、経営が三流だった 」ということ。そもそも経営者を選ぶ仕組みに問題を抱え、相応しくない人がトップに立っているという悲劇をまざまざと経験する。
「 人はインセンティブと性格の奴隷だ 」と人を責めずに仕組みや立場を責める。

再生請負人の目から見える東大卒の実力とリーダーの関係性について、「 実は学歴秩序を決める入学試験には、試験でよい点を取る、重要なポイントがある。それは何かといえば、自分の頭で考えないことなのだ 」と看破する。しかし、ビジネスリーダーはすべての判断に自己をかけなくてはならない。著者は、こう断言する。「 自分の頭で判断し、その結果、責任をすべて自分が負うからリーダーなのだ 」と。


人間性 」×「 能力 」=「 人間力 」である。結論として、経営リーダーの「 人間力 」強化の重要性を力説している。


引用文献: 「 会社は頭から腐る 」 冨山 和彦 著、ダイヤモンド社