千年、働いてきました


安政元年( 1854年 )創業の勇心酒造、当主の徳山孝はこう話す。
西洋のヒューマニズムを 「 人道主義 」と訳してきたのは、とんでもない誤訳やと思うんです。ある学者が言うてましたが、あれは 「 人間中心主義 」 と訳すべきなんです。つまり、何事も人間を中心に 「生きていく 」 という発想。だから、人間と自然との乖離がますます大きくなってきた。環境問題ひとつ解決できない。こういう人間中心主義は、もう行き詰ってきたんやないかと思うわけです。
一方、東洋には自然に 「 生かされている 」という思想があります。私なんか、多くの微生物に助けてもらってきたわけで、まさに 「 生かされている 」 と思います。方法論でも、西洋が 「 単一思考 」 「 細分化 」 であるのに対して、東洋は 「 相対合一論 」 「 総合化 」 や、と。「 相対合一論 」というのは、相反( あいはん)することを合一としながら真実ひとつを目指していくということです。たとえば同じ酵素でも、西洋型の醗酵では、乳酸を作るいうたら、とにかく乳酸だけ種( 種菌 )をようけ作る。単一思考ですから。日本型は、醗酵をいくつも組み合わせた総合的なものなんです。


勇心酒造は清酒醸造で培ってきた醗酵技術( バイオ技術 )を応用し、臨床試験では88パーセントの改善効果が認められた、アトピー性皮膚炎の特効薬といわれている「 アトピスマイル 」を創りだした。


西洋型の遺伝子組み換えではなく、日本古来の醗酵技術の組み合わせによって、製品を開発してきたというのが、私どもの仕事なんです。食に使われてきた日本古来の醗酵技術ですから、安全性はすでに証明済みです。遺伝子の組み換えによって自然界にないものを造り出す方法に付いて回る副作用のおそれもありません。これが日本型バイオなんですね。


引用文献: 「 千年、働いてきました 」 野村 進 著、角川書店