会社は誰のために


初めて受け入れた養護学校からの就業体験。
知的障害をもった二人の少女の就業体験が終わろうとする前日のこと。日本理化学工業の十数人の社員全員が大山専務( 現会長 )を取り囲んだ。「 あの子たち、明日で就業体験が終わってしまいます。どうか、大山さん、来年の四月一日から、あの子たちを正規の社員として採用してあげてください。あの二人の少女を、これっきりにするのではなくて、正社員として採用してください。もし、あの子たちにできないことがあるのなら、私たちがみんなでカバーします。だから、どうか採用してあげてください。」
50年前のことである。その年から日本理化学工業は毎年障害者を雇用し続け、今では障害者雇用率が7割になっている。障害者の人たちが働けるように、人を工程にあわせるのではなく、工程を人にあわせる工夫をすることでその人の能力を最大限に発揮してもらい、事業も拡大している。


多くの経営書では、会社は株主のものである、と書いている。「 会社は誰のものか 」という議論では「 株主のもの 」という考えが支配的で、経営の目的も「 顧客満足 」とか「 株主価値の最大化 」などということが当然のようにいわれている。
しかし、社員が喜びを感じ、幸福になれて初めてお客様に喜びを提供することができる。お客様に喜びを提供できて初めて収益が上がり、株主を幸福にすることができる。だから株主の幸せは目的ではなく結果なのだ。

最近、多くの人が勘違いしているのですが、会社は経営者や株主のものではありません。その大小にかかわらず、従業員やその家族、顧客や地域社会など、その企業に直接かかわるすべての人々のものなのです。
重要なことは、その会社が、私たちの心を打つようなことをやっているかいないか、なのです。心に響く会社なのか、社員がやりがいをもって楽しく仕事に取り組める会社なのかということです。
地域社会の方々から、「 あの会社は私たちのシンボルだ 」、「 この会社はわが町の自慢だ 」、「 この会社にこそ、息子や娘を入社させたい 」と思われるような会社になることです。本当にいい会社とは、継続する会社です。「 業績が高い 」といっても、業績が上がったときに社員を雇い、業績が下がったときに社員の首を切るようなことを繰り返している会社は、長続きしないものです。

「 会社とは、人の役に立つ存在であること 」です。通常の経営者には到底できない行動の数々に胸を打たれます。経営において最も大切なことを思い出させてくれます。



引用文献: 「 日本でいちばん大切にしたい会社 」 坂本光司 著、あさ出版